15時31分、道後温泉に到着した。何度目だろう…、指折り数えてみたが定かではない。しかし、何度訪れようとも、その静かな佇まいは十分なもてなしで、私のこころを穏やかにさせてくれる。
「とりあえず、荷物をほどこう…」
妻は首肯し、今日と明日、ゆっくりと手足を伸ばさせてくれるであろう宿へ、急ぐことなくのんびりと歩をすすめた。宿は温泉にほど近いホテルである。都合よく一階に寿司店があることが目に留まり、このホテルにしようということになった。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 f/4 1/320 ISO100 絞り優先AE
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ホテルの窓からは道後温泉本館が見えた。妻が入れた茶をすすりながら、旧い木造建築をぼんやりと眺めている…たったそれだけのことで、ささやかな幸福感を味わうことができた。
「近くの商店街を散策して、それからあそこの温泉につかろう」
私は目の前の道後温泉本館を指さした。
あるいは、私が選ぶ旅先に偏りがあるからかも知れないが、どの町を旅してみても、昭和の香りが色濃く残る商店街が存在する。そんな商店街をぶらぶらと散策するのも私にとっては旅の重要なファクターなのである。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 f/5.6 1/100 ISO100 絞り優先AE
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ひととおり商店街を散策して、砥部焼の蕎麦猪口を二脚購入した頃、一日の疲れがほどよい加減で身体をほてらせた。
「そろそろ行ってみようか…」
一旦、ホテルへ戻り、浴衣に着替えて半纏を羽織る。ロビーに降りると、あたりはもう夕闇に包まれていた。
道後の湯は格別である。つたない文章で道後の湯の素晴らしさを語るのは遠慮しよう。語れば語るほど真実から遠くなるからである。ゆっくりと温泉につかり、全身がぽかぽかと温まったばかりのその足で、妻と二人、ホテル一階の寿司店の暖簾をくぐった。そして、とりあえず生ビールを二杯とかんぱちの造りを注文した。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 f/4 1/60 ISO320 絞り優先AE
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旅における酒肴は最高の美味である。それがたとえ、鄙びた食堂であろうとその感想は変わらない。昨夜の寿司店でも、おおいに美酒に酔うことができた。おかげでいささか遅い朝食になってしまった。
今日は松山城観光と石手寺観光である。ホテルの窓からは日差しが強い。
「快晴だよ…」
思わず声が弾んだ。
ところで、松山の街にどことなく風格が漂うのは、正岡子規、夏目漱石の足跡が色濃いからのように思う。もしくは司馬遼太郎の「坂の上の雲」を想起し、秋山好古、秋山真之兄弟を思い浮かべる人もいるだろう。そういった意味で松山は著名人に事欠かない。そのせいだろうか、松山でタクシーに乗ると運転手さんの皆が皆と言っていいほど、郷土自慢に多くの時間を割く。それは素晴らしいことだと思うし、羨ましいことだと感じた。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 f/4 1/100 ISO100 EV -0.7 絞り優先AE
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松山や秋より高き天守閣
春や昔十五万国の城下かな
子規の句を待つまでもなく、松山といえば松山城である。子規が誇らしげに作句した理由が城下町から城を見上げればわかる。
松山城といえば加藤左馬之助嘉明が築城したことで知られるが、嘉明自身は城の完成を待たずに会津へ加増転封となる。その後、蒲生氏郷の孫、蒲生忠知が24万国の城主として入封するも断絶し、明治に至るまで松平15万石の歴史が脈々とつづいた。ちなみに創建当初5重であった天守を3重に改築したのは、松平初代藩主松平定行である。この城は今でも日本三大平山城として名高い。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 f/4 1/200 ISO100 絞り優先AE
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