HOME>>記憶の中の旅の記>>その03 …… 岩国[宇野千代の庭](2009年11月23日)


 2009年11月23日、友人二人と岩国に出かけることになった。日差しは赤みをおびて、なかなかの写真日和だと感じた。JR山陽本線の西広島駅から南岩国駅まで、約40分の旅に過ぎない。
 南岩国駅に降り立って、真っ先に目に入ったのは無花果の実だった。そういえば久しくお目にかかっていない。とりあえずシャッターを切って、地図を頼りに宇野千代の旧家を目指した。

 

撮影機種:OLYMPUS E-3 SIGMA APO 140mm f/5 1/400 ISO100 絞り優先AE

 

 さすがに宇野千代が丹精を込めた庭である。あるいは太陽の位置まで計算していたのではないかと感じた。それほど晩秋の低い太陽光にうまく反応していた。樹木の影は長く伸び、苔のひとつひとつを斜光が強く照らしている。季節がら、観光客も多く、想像していたそれよりも数段美しい宇野千代の庭に、私はまちがいなく魅了された。

 

撮影機種:OLYMPUS E-3 ZUIKO DIGITAL 20mm f/6.3 1/60 ISO160 絞り優先AE

 
 ともかく、この季節の光は格別なように思う。その科学的根拠にはまったく興味がないものの、私のつたない視覚をもってしても、うなずかざるを得ない光のありようである。
 木製のベンチがすぐそばに落とした濃い影をしばらく堪能し、久しぶりに大きく背伸びをした。晩秋のひんやりとした空気と暖かい日差しが、日々の疲れを癒してくれる……。そう思える瞬間だった。そのとき目に映った太陽光はとても眩しかったことを鮮明に記憶している。


撮影機種:OLYMPUS E-3 ZUIKO DIGITAL 18mm f/6.3 1/100 ISO125 絞り優先AE


 ふと、目を母屋の方に移すと、若い女性が神妙に何かを書いている姿があった。低い光に照らされて、何か神々しいものを見たような気がして、思わずシャッターを切った。おそらく宇野千代の庭を訪れた感想を備え付けのノートに記していたのだろう。私は少し嬉しい気持ちでその姿をしばらく眺めた。


撮影機種:OLYMPUS E-3 SIGMA APO 140mm f/4 1/160 ISO100 絞り優先AE


  景色は正直である。あきらかに晩秋を思わせる景色がそこら中にあふれていた。宇野千代は晩秋になるといつもこの景色に包まれていたのだろうか……、とても羨ましいことだと心底感じた。
「また、この晩秋の庭を訪ねよう」
 そのとき、確かにそう誓ったはずの私だが、いまだにその約束を果たしていない。


撮影機種:OLYMPUS E-3 SIGMA APO 236mm f/2.8 1/640 ISO100 EV+0.7 絞り優先AE


つづく

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