宇野千代の庭から錦帯橋へと向かった。旧い木造の鳥居に敬意を表しつつさらに歩いた。もう12月になろうとしているのに、汗ばむほどの暖かさだったように記憶しているが定かではない。なにしろ7年前の記憶である。しかし写真を見る限り、やはり暖かかったのだろうと思う。錦帯橋を目指す間、知りうる限りの宇野千代の遍歴を頭の中でたどった。多才で知られ、編集者、着物デザイナー、実業家の顔も持っていたという。私が知っているのはせいぜい「おはん」「生きていく私」くらいのものだが相当な数の著作がある。作家の尾崎士郎、梶井基次郎、画家の東郷青児、北原武夫など、多くの著名人との恋愛、結婚遍歴を持つというのだが、晩年の容姿しか知らない私にはどうもピンとこない。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 SIGMA APO 140mm f/5 1/400 ISO100 絞り優先AE
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それはともかく、秋は深い。小枝の先の銀杏の芽吹きは妙に印象に残っている。同行の友人二人とたわいのない会話をはずませながら、ひたすら歩いた。彼らとは今でも一緒に旅に出かける仲である。そういった友人がいることは誇らしくもあり嬉しいといつも思っている。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 ZUIKO DIGITAL 20mm f/6.3 1/60 ISO160 絞り優先AE
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道中、名前は失念したが、ある寺の境内で写真を撮った。向こうに多くの墓石が見えた。
「立派な寺だなぁ」
と感心した。
もう12月になろうとしているのに落ち葉はない…、そんな年だったのかもしれない。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 ZUIKO DIGITAL 18mm f/6.3 1/100 ISO125 絞り優先AE
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錦帯橋が近い。この道は幾度となく通った道である。桜の木の右手、錦川でニンギョウトビケラという水生昆虫が川底の小石や砂を集めて造る石人形を売っていた店は閉まっていた。ここの店主には、かつて丁寧な説明を受けた。わりと多弁な人だったが、今はどうしているのだろうかと少し気になった。結局、景色は残るがそこに存在する人は変わる。当たり前のことなのだが、少し寂しさを覚えた。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 SIGMA APO 140mm f/4 1/160 ISO100 絞り優先AE
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やがて老いたとき、住んでみたい場所がいくつかある。ここもその一つである。そういった場所を訪ねることはとても心地よい。ずいぶん歩いたせいで少しばかり疲労がたまっていた。しかし、その疲労は、共に旅する友人との昼間の酒席で吹っとぶのである。
つまり、そのために私は彼らと旅をしているのだろう。
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撮影機種:OLYMPUS E-3 SIGMA APO 236mm f/2.8 1/640 ISO100 EV+0.7 絞り優先AE
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