HOME>>記憶の中の旅の記>> その05 …… 大崎下島[御手洗] (2009年04月18日)


 どこの庭だったか記憶にない。七卿落ちの屋敷跡だったような気もするが定かではない。
 普通の民家の庭であったにせよ、美しいと感じたそのときの感慨は残っている。強引に変わり灯籠だと断じて、シャッターを切ったような覚えがある。光の加減がちょうど良く、ぼかし具合を特に気にした一枚である。

撮影機種:OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 82mm f/3.3 1/500 ISO100 絞り優先AE


 ある日、バスに乗りこの島を訪れる……。光は淡く風は暖かい。
 江戸時代の風待ち港、さほど旅程は長くない。幾度も訪れたい場所のひとつである。木製の車輪が塀に立てかけられていた。もし許されるのであれば、いつまでもこの場所に佇んでいたかった。

撮影機種:OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 84mm f/3.3 1/320 ISO320 絞り優先AE


 こういった場所を訪ねると、よくぞ今まで残していてくれたものだと感謝の念を禁じ得ない。私の故郷は山陽新幹線の開発時に消えた。幼馴染みも散り散りになり、未だに音信不通である。そんな境遇のためか、懐かしさを感じるとともに羨望の念に堪えない。かつて私が住んだ町にもこんな医院があったが、今はない。

撮影機種:OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 64mm f/10 1/60 ISO400 絞り優先AE


 風景にはおのずと色がある。その色が一様ではないことはもちろんのことだが、別に配色を問題にしているわけではない。私の言う色とは階調である。場所場所に各々の階調があり、それによって風景の印象が変わる。濃淡が風景を決定づけ、濃淡のみが記憶に働きかける。簡単に言えば、雨は色を濃くし、木漏れ日は色を淡くするのだが、そういった気候の変化にとらわれない階調が場所場所に存在する。
 この島は淡い…、限りなく淡い。今、年月を経て微かな記憶をたどりながらも、その事実については断言できる。

撮影機種:OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 70mm f/10 1/80 ISO100 絞り優先AE


 やがて、いつかもう一度この島を訪れたとき、もしもこの島の風景がただの一ヶ所でも変わっていたならば、私は悲しむに違いないが、所詮それは部外者のエゴである。この煙草屋も消えていくのだろう。この国の生活はそれほど悠長ではない。そんな事実を何度も目撃した。


撮影機種:OLYMPUS ZUIKO DIGITAL 74mm f/3.3 1/80 ISO400 絞り優先AE


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